雑草という草がないことは知っているけれど、私のことは雑草だとでも思って放っておいてくれ – トモコちゃんの解説

日頃より拙作のご愛読まことにありがとうございます!
アンケートフォームより頂戴した感想に特に反応を返してはおりませんが、大切に拝読して励まされております。

今回は、アンケートフォームより頂いた感想で気になるものがございましたので、「これは解説をしたほうがいいかなあ」と思い記事を書かせていただきました。『オーベルシュタインの娘』に登場する『オノヤマトモコちゃん』のお話です。

私が一番気になるキャラクターはトモコちゃんなのですが、自分自身を雑草だと思っているところが自己肯定感が変わっているというか、そういう子なのか!と思いました。彼女は彼女自身の舞台の人生の主役なのだから、ほかの誰かの舞台の脇役であることを意識しすぎているというか……。 舞台を彩る雑草、とは誰の舞台を想定して言っているのかな、とか、なくても別にどうにかなるとは誰にとってどうなるのか自分は自分のことどう考えてるのかな、とも考えてしまいました。 また、彼女はやはり舞台装置に過ぎずそれに気付いている読者の視点を持つキャラなのかなとも考えました。メタ的に考えるとタイトルの通りオベの娘は主人公なのでトモコは主人公との差異を見せ主人公を引き立てる装置なのですが、本人の語りとして自分は主人公を彩る存在に過ぎないけどそれはそれで幸せだと言われると、ちょっとグロテスクなのかなとも思いました。(あえて狙っていたり後にフォローがあったら野暮ですみません)

ご感想、まことにありがとうございます!たくさん、じっくり読み込んでいただけて嬉しいです。引用させていただきました。

ほうほうなるほど、と興味深く読ませていただきました。自分の頭の中だけで妄想を転がして満足せず、作品として世の中に出してこそ、こういった他人様の視点が見られるのだな、と改めて実感しております。

トモコちゃんを気に入っていただけて大変うれしいです。彼女は、私が尊敬している大学時代の友人をベースに、私自身の体験や想像をまぜて作ったキャラクターです。

彼女は確かに最初、ベアテちゃんが一人のときに独白のようにおしゃべりをしてもらうためだけの舞台装置で、名前すらありませんでした。しかし、あのオーベルシュタインと唯一友人になれる女の子、という個性が光るせいかご注目いただき、仮の名前などもつけていただいた関係で、名前がつくことになりました。それから、私の中でもトモコちゃんが動き回るようになり、『自分自身を雑草だと考えている』などのくだりを含めた彼女のエピソードが増えた次第です。

ですので、今ではトモコちゃんというキャラクターもいっぱしの人物であり、ベアテちゃんやヴィクトールくんにも劣らないというつもりでいます。

彼女がグロテスクに見えるというのは恐らく、彼女という人物像がマジョリティの皮をかぶったマイノリティであり、理解しにくいために感じられていることかと推察しております。それもそのはずで、オベ娘はあくまでベアテちゃんの物語であるので、トモコちゃんについて詳しく説明していないこともあり、理解しにくいのも説明不足なのもまったくその通りだと思います。第二集がもし出せたら、それまでにはトモコちゃんについても掘り下げたいなあと考えております。

本来ならば作中で説明できることが望ましいのでしょうが、ここでネタだしを兼ね、オノヤマトモコちゃんについて解説させていただきます。

トモコちゃんの自己認識について

トモコちゃんが自分を『ベアテちゃんという主人公を彩る雑草に過ぎない』と考えているのは、あくまでも『自分やベアテちゃん本人以外の他人からの目線でみたときに』という前提の話です。また、作中モノローグで述べていたとおり、それをさほど悪いことだとは思っていません。彼女は、自分は自分の人生にとって主人公であり、それ以外の役にはたとえなりたかったとしてもなれない、ということを自明のこととして認識しています。さらに、ベアテちゃんの人生にとっては友人という重要な役どころにある、ということも自負しているでしょう。

なぜ彼女が他人からみて『雑草』でかまわない、と考えているかというと、彼女は故郷において『英雄』を体験済みだからです。

故郷におけるトモコちゃん

トモコちゃんは銀河帝国領の片隅にある辺境惑星の出身です。ゲルマン系民族が重用されてきたゴールデンバウム王朝期を細々と生き延びてきた、名前の通りアジア系民族の家系に生まれました。大家族で兄弟姉妹が上下に多くおり、故郷の庶民のうちではそこそこ裕福であるかもしれません。

優秀であろうと無かろうと出世のチャンスがゼロであった彼らにも、ローエングラム王朝が訪れ、チャンスが巡ってきます。まだまだ狭き門ではあるものの、優秀な子供たちに向けて奨学金や入学支援が整備されたのです。

そこで、彼女の故郷の人々のうちで唯一白羽の矢を立てられたのが、トモコちゃんでした。作中では強く言及していないので分からなくても全く問題ございませんが、彼女は実はベアテちゃんにも負けないくらい賢い子なのです。それゆえ、幼年学校の生徒で唯一トモコちゃんだけがアジア系の風変わりな見た目の生徒、つまりは、同じ境遇の子供たちの中でただひとり狭き門を突破した人間だったのです。
そのうち、『トモコちゃんが嫌がるため滅多にできないが、戦闘シミュレーションをするとベアテちゃんが全然かてない』という描写を入れたいと思っています。

彼女は故郷という小さな井戸で、ハイネセンやヤン・ウェンリーなみの『英雄』でした。道を歩けば村中の人から声をかけられ、「今日は何を食べていた」「自転車に変わったやり方で荷物をのせていた」「そこで歩いているのを見かけた」などと声高に噂されます。これは私が高校生のときに実体験したことで、これをどう感じるかは人によると思うのですが、はちゃめちゃにマジでクソうざいです。フードコートでカレーを食べていただけなのに「見ろ!またカレー食べてる」と指をさされて連れを小突いて噂されたりもしました。だからなんなんでしょうかね。
場合によっては、所属していた友人グループの仲間たちが自らの嫉妬心に屈し、「注目されて良い気になっている」などと難癖をつけられて追い出されてしまうこともあるでしょう。

自分の実力が認められるのは誇らしいことです。やる気のもとになることもあり、自己肯定感の基礎にもなります。しかし、過度な注目はいいことばかりではありません。というか、個人の経験からすると、いいことはかなり少ないです。この世界には『有名人に対する倫理観と距離感が極端にバグッている人間』がおどろくほど大勢おり、芸能活動で稼いでいる訳でも何でもなく、ただ、小さな小さな世界でほんの少しばかり人より成績がいいというだけで、そいつらから被害をこうむることになります。

そういった体験をした人間には、『みんな私のこと放っておいてくれたらいいのに』という切実な思いがあります。みんな、私のことなんか知らなきゃいいのに。雑草という草がないことは知っているけれど、私のことは雑草だとでも思って放っておいてくれたらいい。私のやることなすこといちいち反応しないで、気が散るし萎縮させられて迷惑、私のこと見ないで気にしないで、いてもいなくても気づかないくらいに。

こういう人間は、おそらく稀なのでしょう。それもそのはずで、そこまで注目される人間は少数派です。少数ゆえに注目されるのですから。

トモコちゃんには、実力に裏打ちされた確固たる自己肯定感があり、自分にとって自分が主人公であるという十二分の自覚があるのと同時に、心の底から『(他人にとって)雑草の人生とは悪くないものだ』と考えています。それは、彼女が彼女の物語を経たからこその思考なのです。

ベアテちゃんとトモコちゃんの関係性について

メタ的に考えるとタイトルの通りオベの娘は主人公なのでトモコは主人公との差異を見せ主人公を引き立てる装置

ではないです。しいていえば、主人公のベアテちゃんに喋ってもらうためのキャラクターですかね?くせ者でないフェルナー的なもの、と考えていただければ。

独り言を言わない性質の人間にとって、誰もいないところで喋るって、無意識にできないんですよ。自明だと思っていることをいちいち考えたりもしないでしょうから、モノローグで考えを述べてもらうのも難しいときもありますし。考えを出してもらうには、質問やリアクションをしてくれる人間が必要です。

トモコちゃんとベアテちゃんには差異があります。が、ベアテちゃんは誰とも違っている、父親とももちろん違っているので、とりたててトモコちゃんで差異を出そうとはしていません。たぶんどのキャラもそうで、ただ関わらせてやり取りをさせるだけで互いの相違が出てくると思っております。

その他大勢の学生にとっては、ベアテちゃんとは無視できない存在であって、さながら物語の主人公のように注目してしまう存在であるのに対し、トモコちゃんのことはかろうじてクラスメイトと認識している程度です。一方、ベアテちゃんにとって、トモコちゃんは胸を張って「彼女が友人です」と父親やアレクサンデル様に伝えられる大事な人物です。いくらベアテちゃんでも「友人は誰もいません」と伝えるのはちょっと気が重いでしょう。トモコちゃんにとってもまた、ベアテちゃんは故郷の家族に「彼女がオーディンでできた友達だよ」と伝えられる重要な人物であります。

どこまでを舞台装置というのかちょっとよくわからないのですが、二人の関係はそんな感じです。

という感じなのですが

本編の描写だけで分かるわけ!!!ないと思います!!!ので!!!まったく!!!そこは!!!気にしないでくださいね!!!

雑草という草がないことは知っているけれど、私のことは雑草だとでも思って放っておいてくれ – トモコちゃんの解説
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